〜明るいけど、すこしブルーな日々〜




あなたに似た人/ロアルド・ダール/早川文庫

 短編集。一話一話の構成もさることながら人物設定が巧妙で、おかしなシチュエーションの中での彼らの反応が予見できず、そこから来るストーリーの冒頭にただよう不穏な雰囲気が楽しい。

 「味」、「おとなしい凶器」や「皮膚」のようによくできた話ももちろん悪くはないが、ストーリーの結末とは関係なく「海の中へ」のような伏線もなく登場する最後の目撃者や「南から来た男」に登場する賭を持ちかける老人のわけのわからない怖さのような説明のつかない雰囲気がある作品の方が私は好きである。

 また、「韋駄天のフォクスリィ」や「お願い」の肩すかしもにっこりしてしまうが、どういうわけか「毒」の場合はそれで終わりでなく、ちょっと奇妙なやりとりが最後にあって、それでひと味きかされている。これは世の中で言われているように意外な結末で読ませる短編集ではなく、その雰囲気を楽しむものと考えた方がよいのではないだろうか。

(★★ 2004)



長いお別れ/レイモンド・チャンドラー/ハヤカワ文庫

 私立探偵フィリップ・マーロウは礼儀正しい酔っぱらいテリー・レノックスを助け妙な友情関係をもつこととなる。ある日、彼は突然現れメキシコ国境まで送ってほしいと頼む。その頃、彼の妻シルビアの射殺死体が発見され、警察はテリーを殺人容疑で追跡する。彼はメキシコで射殺死体となって発見され、マーローのもとには遺書らしきものが届く。事件はテリーがシルビアを殺し、逃亡の果て自殺したものとして処理されるが、マーローは友人の死の真相を探りつづける。

 チャンドラーのハードボイルド小説の最高峰。自己陶酔が鼻につくけど、この台詞回しはやはり一度は読む価値あり。

(★★)



ホッグ連続殺人/ウィリアム・L・ディアンドリア/ハヤカワ文庫

 ニューヨーク州の地方都市スパータはホッグによる連続殺人の恐怖に襲われていた。雪の日、工事中の看板が走行中の車に落下するという一見事故のように見える事件のあとにホッグと名乗る何者かから犯行声明が届く。その後も、老人の墜落死やツララの落下による子供の死などに対して、ホッグの犯行声明と予告が続く。当局は、殺人心理の専門家ベイネデイッティ教授に捜査を依頼する。

 一発ネタのメイントリックで読ませる本格ものである。少々感情移入しにくい物語ではあるが、後に模倣作(といって悪ければ、オマージュ)を生んでいるという点でミッシングリンクものの一つの到達点ともいえよう。

(★★ 2002)



ウッドストック行最終バス/コリン・デクスター/ハヤカワ文庫

 二人の娘はウッドストック行きのバスを待っていたが、バスがなかなか来ないため、「赤い車」をヒッチする。このとき目撃されたのを最後に、そのひとりは撲殺死体で発見された。この事件を担当するのが、天才肌ではあるが思考がとりちらかってしまったり身勝手な行動をとったりというちょっと変わった名探偵モース警部。もう一人の娘の行方や犯行をめぐるさまざまな謎に警部がつぎつぎと大胆な仮説を立てていきつつ話は進行する。

 本格推理小説に分類されるのは確かであるが、本作は、読者が探偵と一緒に証拠を集めてそこから真相を示す仮説を導いていくという普通の本格物ではない。我々は、モース警部の思考を一緒にたどり、ある時は荒唐無稽な暴論に、またある時はもっともらしい推論に振り回されていく(時には、今がどういったシーンであったかを忘れさせてしまうほど)。ちょっとひねた本格物読みにはぴったりの屈折ぶりが楽しいが、正直1冊読むと何ともいえない疲労感が残るのも否めない。

(★★)



キドリントンから消えた娘/コリン・デクスター/ハヤカワ文庫

 モース警部シリーズ第2作。2年前にキドリントンで失踪した17歳の少女から両親に手紙が届いたため、捜査を命じられるモース主任警部。本当に娘は生きているのだろうか、あるいは死んでいるのだろうか。俗物ぶりを発揮しつつモース主任警部が仮説を立てては棄却し、得意になっては落胆するというようなことを繰り返しつつ、それでも真相に近づいて行くストーリー展開が魅力。

 このモース警部の造形は、イギリスっぽいカリカチュアライズされた役人の姿である。皮肉が効いていて、ユーモアたっぷりに描かれている、推理そのものはさえていない探偵だが、それでも、どちらかというと地味な事件をけれんたっぷりに解決する姿が見どころの一品。

(★)



サーチする:
Amazon.co.jp のロゴ


読書雑記へ

トップページへ戻る


SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO