〜明るいけど、すこしブルーな日々〜




女には向かない職業/P.D.ジェイムス/ハヤカワ文庫

 パートナーの自殺によって私立探偵オフィスを引き継いだコーデリア・グレイは、最初の仕事としてロナルド・カレンダー卿の息子マークの自殺に関する調査を開始する。彼女は、マークが自殺したのではなく、殺害されたのではないかという疑惑を抱き捜査を進め、彼の出生の秘密が明らかになっていく。

 ストーリーは地味で驚愕の結末というわけでもない。しかし、何といっても探偵役のコーデリアがよい。女性探偵ものに共通するように思えるが、自らを弱いところも含めて分析し自覚的に抑制のきいた行動をとるという主人公の描かれ方が気持ちがよい。女性がみんなそうであるということは当然のことながらないわけで、どうして女性作家の探偵役は同じような描かれ方をするのだろうか。欧米的なのか(コーデリアは米国産の彼女の同僚たちよりさらに抑制がきいているように思えるが)、単なる流行なのか。いずれにしても、我々は普段の生活はきわめて無自覚に過ごしているので、こういう「きちんとした」生活者がまぶしいのは確かである。

・「不作法は常に意識してされるべきで、そうでないとしたら無神経ということになりますわ。」コーデリア・グレイ
・ジョルジュとカールに出会う前は孤独で未経験だった。そのあとはやはり孤独で、ちょっぴり未経験ではなくなった。
・「良心なるものに左右されている人間というのは決して安心できないのだ」ロナルド・カレンダー卿

(★ 2004)



エリー・クラインの収穫/ミッチェル・スミス/新潮文庫

 ニューヨーク市警遊軍部隊の女性刑事エリー・クラインは能力はあり手柄をたてることもあったが、警官としての適性については疑問しされていた。彼女とその相棒トミー・ナードンは、高級娼婦が自宅のバスルームで殺害された事件を追うこととなる。

 これでもかというほど微に入り細にわたりエリーの日々がつづられていく。そこで明らかにされるのは娼婦サリー・ゲイサー殺人事件の真相だけ ではなく、警察機構の中での遊軍部隊の微妙な役回り、娼婦の娘への告白、レズビアンの関係にある恋人との生活とすれ違い、性転換をし不治の病に冒された重 要証人との交流やストーリー上まったく関係のないキャラクターとの接触などなどエリーにかかるあらゆることであるといっても過言ではない。彼女が描 く絵のことや妄想までもが綴られていく中で、エリーという人物にリアリティがでてくるということなのだろうか、中途半端なドラマがなく、ひたすら人物の存 在感を出すべく描きこみがなされている。

 ただ、その割にリアルな印象が弱いのは、読み手の想像力を奪ってしまうような大量の描写があるからではないかとみえる。あるいは、人物のど うでもよい日常に立ち入りすぎてちょっと辟易してしまうのかもしれない。しかも、本筋はちょっと弱いプロットになっていて、分厚い描写でエリーへ向かっ た感情移入が頼りなげなストーリーのために支えきれいていないように感じられる。

 不思議なもので、描きこみが足りない相棒のトニー・ナードンが少しステレオタイプなものの一番魅力的な存在感をもっている。つくづく小 説の描写のバランスは難しいものだと思う(もちろんそれにあらゆる読み手を満足するような描写の水準というものはないのかもしれない)。

 ところで、まったく本書の価値とは関係ないのですが、新潮文庫は活字の大きさ濃さや配置のせいか、どうも読みにくい。

(★ 2005/05)




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