〜明るいけど、すこしブルーな日々〜




戻り川心中/連城三紀彦/講談社文庫

 花をモチーフとした明治大正期の物語を集めた短編集「花葬」シリーズ。

「藤の香」寂れた色里で遊女達に信頼されていた代書屋が殺人に走ったのはなぜか。
「桔梗の宿」幼い女郎を巡る男達が殺され、刑事の私は捜査でこの少女と接触する。桔梗に託された少女の純真と悲劇。
「桐の柩」小さな縄張りを持つ組に身を置く俺は、兄貴分に親分を殺すことを頼まれる。
「白連の寺」幼少時代のおぼろな記憶にあるのは、母が誰か男を殺す映像。その時、何が起こったのか真相と自ずからの出自が明らかになる。
「戻り川心中」大正歌壇の天才歌人苑田岳葉は自分の心中(未遂)を詠んだ歌集が評価されるが、やはり最後は自ら命を絶つ。岳葉の研究家の私はこの歌人の秘密を探求する。

 ミステリーを読む時は普通、この人物は怪しいとかこの一文は伏線だろうかとかと気を遣って読むことが多いものである。しかし、著者の短編集に関しては、黙って素直にストーリーが展開して行くままに、身を任せてしまう。結末で、思いもよらぬ結末をつきつけられるとともに、ストーリーとしての余韻も残る短編小説としての完成度の高さゆえ、余計な深読みは邪魔になるからである。

(★★★)



黄昏のベルリン/連城三紀彦/講談社文庫

 画家の青木の前に現れたエルザは、彼がナチスの収容所で生まれたのではないかと話し始めた。青木は自分の出生を知ることを強く望むようになり、反ナチス組織であるエルザの属する組織の誘いを受入れベルリンを訪れる。他方、ヒトラーの愛人マルトや東ドイツから来た男ギュンターなどが絡み、ヒトラーの子供を巡って第3帝国の復活へと向けて、物語はパリやリオデジャネイロでも動き出す。

 本作はナチスを扱った国際謀略小説風の構成で、著者としては舞台設定がかなり異色な作品である。しかしながら、最後に読者に提示されていた景色を一瞬で反転させる技巧はここでも遺憾なく発揮されている。それともう一つは、著者の描きだす叙情性はこうした設定の小説でもその世界を支配しており、同種のテーマを扱う小説(スパイ小説など)とは全く異質の肌触りのものとなっている。

(★)



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