〜明るいけど、すこしブルーな日々〜




THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ/矢作俊彦/角川書店

 神奈川県警の刑事二村は横須賀の酒場で元米空軍のベトナム戦争の撃墜王ウィリアム・ルウ・ボニーと名乗る酔っぱらいと知り合う。二人は酒を飲みながら意気投合するが、ビリー・ルウはある夜彼に米軍基地まで車で送らせた後、死体と数々の謎を残して消えてしまう。そのことで彼は捜査課から資料部へ転属することとなるが、同じ時期彼の元先輩であった刑事から国際的バイオリニストの養母の消息の調査を依頼される。この二つの事件が奇妙に絡み合いながら物語は進んでいく。

 言うまでもなく、本作はチャンドラーの名作のパスティーシュであり、冒頭の物語の進捗から小道具、名言まで含めて、「長いお別れ」の本歌取りになっている。ストーリー的に戦後日本のアメリカとの関係を下敷きにしており、一種時代批評的になってもいるが、それを必ずしも否定的に捕らえているわけではなく、そういう時代でしか生きることの出来ない人間が今の横浜・横須賀や現代そのものになじめないことを皮肉に描いている(そうでなければ、今更ベトナム戦争を引っ張り出してくる必要などどこにもない)。また、その描き方であるハードボイルドさえも、時代錯誤的に少々斜に構えて提示しているように思えてならない。ただ、アイリーン・スーやクリス・アッカーマンなどかつてのシリーズでお目にかかったキャラクタ達が顔を出しているところに著者の遊びを感じる。

 ところで、フリーの警官ですらなくなった二村の次回作はあるのだろうか。

 しかし、それにしたって「客員論説委員・木村 卓而」の書評はひどすぎる。読みたくないなら、知らないなら、書くな。

(★★★ 2004)



ミステリー倶楽部へ行こう/山口雅也/講談社文庫

 ミステリーの書評集。スティーブン・キング「呪われた街」とエラリー・クイーン「災厄の街」の共通点を指摘した「キング・ミーツ・クイーン」が秀逸。本格推理小説のけれんを求める氏の主張には共感。かつてSFに未来があった頃、SFにはセンスオブワンダーが必要と繰り返されていたが、それと同じように、ミステリーが本来もっていなければならないもの。それがあるからこそ世のミステリー読みたちはとめどなく本を読むのである。

(★★ 2004)

ミステリーズ/山口雅也/講談社ノベルズ

 著者の第一短編集。
「密室症候群」母親が心を閉ざした息子ケンをつれて精神医のキンロス博士の元にやってきて、彼はその心をあらわすような密室を作る。そしてこれは、密室恐怖症の推理作家ロシターとその兄の内なる対決となる。最後に再びキンロスが過去を振り返る。かつてのキンロスの同僚の姪アグネスが気づいた真相は何か。
「禍なるかな、いま笑う死者よ」笑いを巡って不条理な状況に追い込まれるディレクターのアダムズはなぜ死なねばならなかったのか。
「いいニュース、悪いニュース」倦怠期の2組の夫婦のスワッピングの末路。
「音のかたち」戦時中のドイツ製スピーカ・オイロダインが追い込んでいく狂気。
「解決ドミノ倒し」殺人者は、論理的に言ってこの一同の中に潜んでいる。その一同の中には誰が…?
「あなたが目撃者です」連続娼婦殺人事件を取り扱う番組「あなたが目撃者です」。その犯人の条件と合致する男。最後に彼がとった行動は。
「私が犯人だ」殺人を犯した男が知らぬ間に村芝居に紛れ込んでしまう。
「蒐集の鬼」レコード蒐集狂の悲喜劇。
「《世界劇場》の鼓動」滅びかけた世界と《世界劇場》を訪問した私。
「不在のお茶会」
 傑作の誉れ高い短編集。著者があとがきにも記しているように、音楽のアルバムに擬するとすれば、バランスのとれた作品群の配置も含めて、完成度の高いアルバムといえる。ただ、探偵小説の短編集とは考えない方がよいかもしれない。「密室症候群」や「あなたが目撃者です」のように緩いしばりの推理小説はあるが、それも一ひねりきかされているのはもちろんのこと、SFの風合いが強い「音のかたち」やサイコホラー調の「禍なるかな、いま笑う死者よ」、緩急の緩にあたるような小話風の「いいニュース、悪いニュース」、「私が犯人だ」など、すべてがこの短編集『ミステリーズ』をミステリーズたらしめるために機能している。

(★ 1997)



阿弥陀(パズル)/山田正紀/幻冬舎文庫

 残業帰りの恋人同士の一方がカメラに監視されている深夜のビルから消えてしまう。ビルの警備員と風水火那子がこのなぞに取り組む。

 私の中では山田正紀は『神狩り』『弥勒戦争』などのSF作家である。SFというセグメントが失われてしまい、本格SF作家がミステリー作家となってしまったのは、プラスの面がないとはいえないが、一抹の寂しさがつきまとう。そういう目で見てしまうからだろうか、どうも文体が媚びているように見えて、悲しくなってしまう。しかし、ミステリーとしての骨格はさすがである。人の消失トリックもさることながら、動機が説得力のあるように伏線を張っているところも、SF作家として稀代のストーリーテラーの面目躍如であった。これからしばらく『ミステリオペラ』に至るミステリー作家山田正紀を追ってみようかとも。

(× 2005/02)


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