〜明るいけど、すこしブルーな日々〜




虚無への供物/中井英夫/講談社文庫

 代々変死や非業の死を遂げる氷沼家で起こる惨劇を光田亜利夫、奈々村久生、牟礼田俊夫らがある時は事件に巻き込まれ、ある時は解決に向けて奔走し、事件の真相に迫っていく。現在氷沼家には、父母と叔父を洞爺丸事件で失った蒼司と紅司兄妹と従兄の藍司、医者の叔父の橙二郎、昔から氷沼家に関係のある不動産屋八田皓司等が出入りしている。主人公。第1に完全な密室状態の風呂場で、紅司が死体で発見される。探偵気取りの面々が様々な推理を展開させるが核心に迫れない中、麻雀が行われていた氷沼家の第2の殺人が発生し、密閉された書斎で橙二郎がガス中毒で死ぬ。さらに謎の人物鴻巣玄次が、八田の弟であることが判明し、服毒自殺を遂げたように死ぬ。この後、牟礼田の書いた次の4番目の密室事件についての小説が挿入され、事件は解決へと向かっていく。

 本格推理小説の奇書の誉れ高い古き良き時代のミステリー。戦後洞爺丸事件を背景としシャンソン、ゲイバーなどの風俗が描かれる時代設定、宝石商の名家という舞台設定、奇矯な振る舞いの多いキャラクタ達に加えて、薔薇の色彩、五色不動明王といったペダンティズムさらには不思議のアリスやポーを初めとするあまたの小説の引用と本歌取り、そして過剰な密室と死、もうこれでもかというほどの盛りだくさんの一作。そして、アンチミステリー。

 確かに本格推理小説読みにインパクトを与えるに十分なものである。ただ、本作は戦争による大量の死が描き出したこの世の不条理という時代とメッセージを念頭に置かないとたぶん理解不能な小説になってしまうのではないだろうか。密室殺人事件と探偵の名推理という形式としての推理小説は機能しているが、同じ形式を持つあまたのミステリーとは志が違うのである(高い低いということではなく)。最初から推理小説的決着などメッセージ的にも形式的にも必要な小説ではないのである。

 講談社文庫版の解説もその意味では、少々不親切で、「動機」についての扱いの不満を述べ、これ以降推理小説をものしなかったのはアンチミステリーを書いたからだとある。むしろ動機の扱いは不条理の描き方の根幹とは言わないにしても大きな要素を含む部分であり、推理小説として読めば不満は必然である。また、推理小説をこれ以上書かなかったのも本作があくまで不条理を描く形式としてミステリーが選ばれたのだとすれば、その先に形骸化した様式は創造者としては意味をなさないだろう。また、そうだとすれば、アンチミステリーという形式の模倣や現代ミステリー作家への影響は無意味である。ジャンルの限界からアンチミステリーにたどり着くものと、ジャンルの外から異なるものを表現するために形式を利用したものの間に共有できるものはないからである。

(★ 2004)



ジャパン・ハンドラーズ―日本を操るアメリカの政治家・官僚・知識人たち/中田安彦/日本文芸社

 米国の対日戦略を練り上げ、実行する人々のネットワークを調べあげてまとめたもの。大学・シンクタンクの研究者の系譜を中心に米国側の対日戦略 を仕掛ける側とそれを受け日本側で動くカウンターパーツが実名入りで紹介されていく。どのように日本が米国に取り扱われてきたかが浮き彫りになる。

 正直、最初この本を本屋で見たときには、巷間出回っている「○○陰謀論」の類の胡散臭さを感じた(それは今も完全に払拭されたわけではないが)。しか し、冒頭に出てくる日米コネクション相関図を見て買うことにした。これはなかなかよく出来たチャートで、私は仕事柄、ここに出てく る人物のひとりに関する話を知っているが、そこを全貌ではないにせよ抑えているので、それなりにちゃんと調べたのかなと思ったからである。

 内容は、日米関係者の両国関係の基本を作り出しているキーマンの人物名鑑になっていて、今後の日米関係の動きに接していく時に、背景が見通しや すくなりそうなまとめられ方がされていてお役立ち度が高そう。論調は、取り上げた人々の発言や著作物の引用をたくみに組み立て、ファクツを積み上げる形式 をとっており、妙な誘導や冒頭にあげたような陰謀論などはなく、新聞を読むように読めてしまう。

 簡単に読めてしまうのは、ここに書かれたことの大部分がそれほど目新しいことではないことに由来している。米国の対外戦略において「どのよう に」の部分は、陳腐な印象が強く、この本の肝は、「誰が」という部分にあるのでいたしかたないとは思うものの、そこは掘り下げがもっと あってもよかったのではないだろうか。 それと、本書のターゲットではないが経済界での動きは、個人的にもっと興味がある分野でもあり、今後さらに調査を進めて発表してもらいたい。

(2005/06 ★★)




模倣の殺意/中町信/創元推理文庫

 デビューはしたものの第2作が書けなくて苦しんでいる新人作家坂井正夫が7月7日午後7時に服毒死を遂げる。自殺として処理されようとしていたが、編集 者で大物作家の娘と元推理作家のルポライターが坂井の死の真相を求めてそれぞれ同時に調査を始める。2人の調査が1章ごとに交互に記述されていく。

 初出1972年ということなので、今では繰り返し使われている手法ながら、当時はかなり斬新であったのではないかと推測される。その時に読む ことができたら、今よりはるかに驚き、繰り返し読んだかもしれない。その意味では、登場が早過ぎたパイオニアには高い敬意を払いたいと思う。

 しかし、本作の流れをくむ同工異曲の作品が巷にあふれ、読み手がすれてしまっている状況下での復刊はちょっと苦しいか。このトリッ ク自体が古いわけではないが、記述が30年前のことなので、読み手が妙に身構えてしまい、みずみずしくない印象である。読んで楽しいかという点か らは、少々厳しい評価とせざるを得ない。横浜ランドマークにある本屋で宣伝していたので購入したのだが、本屋のすすめ文句に少しのりすぎたかなと反省。

(× 2005/04)



エナジー・エコノミクス―電力・ガス・石油:理論・政策融合の視点/南部鶴彦・西村陽/日本評論社

 本書では、電力事業の特性を分析し、そこに競争原理を如何に持ち込んでいくかというアプローチが示されていく。また、より具体的に、北欧や英国、米国の電力産業をケースとして分析している。最後に議論をより普遍化しており、ネットワーク型産業として、石油・ガスセクターの産業組織と競争についても触れられる。不確実性の取扱としてリアルオプションモデルなどを示し、今後の議論の更なる深化と展開が想定される形で論が閉じられる。

 米国で発生した電力危機などを機に、私は、電力セクターの自由化の議論に興味を覚えて、この本を購入。大規模な装置産業であるとともに、社会・経済インフラである電力事業は、マーケット原理にさらすことで真にefficientでreliableなものとすることができるのだろうか。OECDや世銀などで纏めているものは、どちらかというと自由化礼賛的論調が目立つ中、この問題を理論の面から取り扱っている書は非常に少なく、その意味では、本書は貴重な一冊であるといえる。

 非常に平易な経済学で、電力セクターの課題とそれへの取組みが示されるており、産業組織論のテキストとして読んでも面白い。私の興味関心とフィットしており、かなり楽しく読むことが出来たが、例えば経済学部の学生が、学んだ理論を用いて現実を分析する際の考えていくプロセスを学ぶという点からも、価値のある一冊ではないだろうか。

 また、私は著者とかつて食事などたまたま同席させていただく機会があった。きわめて紳士的である一方、直截な物言いが時として経済産業省の電力政策に対する批判とも受け取られ、審議会などに呼ばれることがなくなったと言っておられた。確かに、間違っているものを退ける峻烈さを持っているように感じられた。

(★★★ 2003)




やっぱり使える「ポスト・イット」!!速読・速解の技術/西村晃/大和出版

 この中に書いてあるようにポストイットを使いながら、読んでみる。

 読書は一度の精読より数度の拾い読み。初読の際にポストイットを貼りながら読んでいく。重要度に応じてページの貼る位置を変え、必要に応じて書き込みを3色ボールペンで行う(赤青を肯定否定の論調に分けながら使う)。読解の方法は、基本はキーワードの拾い読み。その本を読む際の自分の問題設定を明確にして、それへの答えを見つけていくということで不要部分を読み飛ばす。キーワードは、序章やまえがきに、略語や「」に注意してみつける。重要な部分は前半100ページまでにかならず現れる。発想法としては、分類し再構成することでつかむ。また、手で書き込むことで頭に定着することの重要性についてハイライトされる。

 この手の類の中では、かなり実用性の高いものであったが、自分がやっていることとの比較ではそれほど目あたらしくはなかった。こうした方法論は活字で読むことで自分の行っていることの再確認になるのと、独りよがりになっていたり、逆に大胆になりきれない部分を修正してくれることで、役に立つ。それが証拠に、自分が普段まったく行っていないような類のことが書いてあるものは刺激にはなっても、自分の効率を上げてくれることには余り役に立たないことが多い。本書では、2.5×7.5のポストイットを奨励していたが、個人的には読書にはちょっと大きくて使いにくい印象がある。どうなのだろうか。


(★ 2005/03)



慟哭/貫井徳郎/創元推理文庫

 連続幼女誘拐殺人事件に対する警察側の捜査は暗礁に乗り上げる。そうした状況の中で、エリート捜査1課長・佐伯の組織内での軋轢と内面の苦悩が記述される。他方、サイドストーリとして、新興宗教とそこにのめりこんでいく男の独白が続く。そして、この2つのストーリーが最後に1本の結末へと収束し、北村薫いうところの《仰天》を現出する。

 この男の絶望的な空虚から狂気へと向かっていく部分、そこで彼が「信じたいから信じた」と告げるところが、個人的には本作の白眉ではないかと思う。

 以前書店で貫井徳郎フェアのようなものをやっていたときから目をつけていたもの。やはり最初に読むのは、処女作であるべきであろう。腰巻の推薦文などほどでもないというのが、率直な感想。叙述物で大きな感動を生むのは難しい。やはり技巧が前面に出て目立ってしまうためだ。しかしながら、最後に、すべてが明らかになったときに、大部分を費やされた前半の事件が解決されないというのは、小説としてリアルであった。その点は高く評価したい。文章は、出だしはかなり稚拙な感じであったのが、だんだん書いているうちに巧くなったのか、読む側がならされていくのか、それほど気にならなくなる。第2作目以降を読んでみて、作家通しで読むかどうかを決めることとしよう。

(★ 2004)



雪密室/法月綸太郎/講談社文庫

 法月警視は、山荘「月蝕荘」に招待される。互いに面識もない招待客は山荘の主に強請られていた被害者たちであった。彼らが一堂に会したその夜、雪に囲まれた離れで招待主の女性が殺される。あたりには足跡も無い。誰が、そして如何にして、殺人は行われたのか。この密室殺人の謎に法月警視の息子綸太郎が挑戦する。

 本格推理らしい構造の作品。斬新ではないが手堅い。名探偵はこういう事件を解決して実績を重ねなくてはいけない。まして法月綸太郎はこのあと鬱の時代に入ってしまうので、本書のように軽妙な探偵ぶりを発揮しておかないと読者は探偵のそもそもの姿を見失ってしまう。文庫版のあとがきにあるように、著者の独立第1作としての価値は十分にあるのではないか。

(★ 1999)



誰彼(たそがれ)/法月綸太郎/講談社文庫

 新興宗教の教祖のもとに謎の人物から死の予告状が届けられ、その予告通りに地上80メートルにある塔の密室から彼は消失してしまう。そして、二重生活を営んでいた教祖のマンションで首なし死体が発見されるが、この死体は消えた教祖なのかは判明しない。なぜ首は切られたのか。教祖の兄弟に隠された謎を追って、法月綸太郎はつぎつぎと仮説を打ち立てるが…。

 コリン・デクスターばりの論理展開の妙が見所の本作である。しいて異なる点を見つければ、普通の事件を論理の力で解決しようとするがために、より大きな混迷に直面してしまうプロセスがデクスターの小説の見せ場だとすれば、本書は、常に論理の力を超えてしまうグロテスクな事実の登場そのものとそれによって論理の上書きが次々になされていくことが本作の魅力の源泉であるといえよう。個人的にはちょっとつらいかな。

(★ 1997)



頼子のために/法月綸太郎/講談社文庫

 十七歳の娘を殺された父親は、警察の捜査に疑念を抱き、自ら犯人をつきとめて相手を刺殺、手記を残して自らは死を選んだ。しかしその手記を読んだ法月綸太郎は、疑問を抱き事件の真相解明にのりだす。

 法月綸太郎という作家の底力を示した一作である。本格ミステリーであると同時に、ハードボイルド小説として人間の悲劇性を描くことにも成功している。謎を提示し解決へ向けて独特の文法が必要となる本格物でも、読み手側がゲームの背景としてではなく小説の結末として目を背けたくなるような真相を通じてそれを描けたことは重要な到達点として記憶すべきである。そして、真相の非日常性・異常性は読者を揺さぶると同時に、探偵自身をも揺さぶることとなる。

(★★ 1997)



法月綸太郎の冒険/法月綸太郎/講談社文庫

 名探偵・法月綸太郎が取り組む難事件を集めたミステリの醍醐味あふれる第一短編集。
 死刑執行当日に殺された死刑囚の事件を取り扱った「死刑囚パズル」、問題のある一家で発生した殺人事件「黒衣の家」、殺した相手を食べてしまう謎を解明する「カニバリズム小論 」、図書館の蔵書の冒頭を切り裂く事件を描いた図書館シリーズの「切り裂き魔」、 蔵書家の書庫で起こった密室殺人を巡る「緑の扉は危険」、毎週20枚の50円玉を千円札に両替に来る中年男の動機を解き明かす「土曜日の本」、借りた本に薔薇の意匠の栞を残す意図は何かを描く「過ぎにし薔薇は・・・」。

 本格ミステリーの短編集としてはかなりの水準のものである。「死刑囚パズル」は本格黄金期の作品的な論理の妙と、ホワイダニットが融合した短編本格の傑作である。


(★★)


パズル崩壊/法月綸太郎/講談社ノベルス

 ホテルの客室で発見された女の上半身と男の下半身がつながれた惨殺死体のそれぞれの半身をめぐる密室殺人の謎を追う「重ねて二つ」、共犯者を殺してしまった強盗犯の犯した重大なミス「懐中電灯」、呪われた絵画「黒のマリア」を巡り美術商で発生した殺人事件「黒のマリア」、誘拐犯からの間違い電話のせいで事件の片棒を担ぐ羽目になった推理作家の不思議な経験を描く「トランスミッション」、ドッペルゲンガーを取り扱った「シャドウ・プレイ」、密室殺人事件を描く(?)「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」、気鋭の前衛画家はなぜ妻の遺体に絵を描いたのか?会心の中編「カット・アウト」など、著者の新境地を切り拓いたとされる傑作短編集。

 探偵・法月綸太郎は出てこないノン・シリーズの短編集。『冒険』と比べるとどの作品も必ず一ひねりしてあり、シンプルな、といって悪ければ“黄金期的”な本格のスタイルは崩してしまっている。やはりこの中では、「カット・アウト」がよくできている。

(★ 1999)



法月綸太郎の新冒険/法月綸太郎/講談社ノベルス

 名探偵法月綸太郎の活躍を描く短編集。
 特急「あずさ」の車内で夫婦連れの男性が変死し、同時刻に、ホームに並ぶ別の列車内で毒死した女性の死体が発見された。彼女は夫の浮気相手らしいが、真相を追求する綸太郎と穂波の「背徳の交叉点」、心霊もののテレビ番組で超常現象の権威である教授がシャンデリアの下敷きになって死亡する事件の「世界の神秘を解く男」、警視庁捜査一課の葛城警部が助けた身投げ未遂の女性は、雇い主の占い師を殺してしまったと告白するが、死亡推定時刻と合わない謎を追う「身投げ女のブルース」、テレビの現場中継で放映されていることをアリバイとする容疑者に綸太郎が罠を仕掛ける「現場から生中継」、ホステスを襲った男が逮捕され、その男の妻も殺されており、交換殺人の様相を呈する「リターン・ザ・ギフト」。

 『冒険』同様手堅い本格ミステリーが並んでいる。意外な結末が用意されているが、それは意外な犯人だけではなく、意外な動機や背景となる人間関係などである場合もある。その意味では引き続き完成度は高い。

(★★ 1999)



法月綸太郎の功績/法月綸太郎/講談社ノベルス

 夫の浮気相手のマンションに向かった妻の留守中に留守番の妹が何者かに刺し殺された。現場に残され、「=Y」のダイイング・メッセージが残されている『=Yの悲劇』、カタツムリの渦巻きが重大なヒントとなるミステリ作品執筆中の作家が「チャイナ橙の秘密」さながらの密室から消失する『中国蝸牛の謎』、自宅での飲み会解散後に殺された大学生の家に忘れ物を取りに戻った女性は電気をつけずに部屋から出てきたため命拾いをしたのか、有名な都市伝説を取り上げた『都市伝説パズル』、ほぼ解決している殺人事件や自殺事件の都度自首してくる無関係の男の狙いは何か『ABCD包囲網』、自殺をほのめかす電話を掛けたOLが首を吊った死体で発見されるが、死因は縊死ではなく、後頭部にある打撲傷であったという謎に迫る『縊心伝心』。

 一応5作品とも本格推理の短編としての完成度は高いが、『=Yの悲劇』、『中国蝸牛の謎』といったあたりはやや残り3作品と比べると、その状況設定と結末という入り口と出口のところで見劣りしてしまうように思える。やはり、本格好きには『都市伝説パズル』だろうか。途中で犯人はみえみえだが、この有名都市伝説をネタに、論理展開の緻密な作品を作り上げた腕前は見事である。ただ、私は、『ABCD包囲網』と『縊心伝心』の方が読者を引っ張る設定された謎の力が大きいように思える。

(★ 2002)



謎解きが終ったら―法月綸太郎ミステリー論集/法月綸太郎/講談社文庫

 寡作の本格推理作家法月綸太郎による初めてのミステリー評論集。中上健次からジェイムズ・エルロイまでを自在に論じた本書は、実作者としての経験と豊富な知識に裏打ちされたミステリーの枠を超えた優れた文芸評論になっている。

 この人はミステリーが好きなのだなあと強く感じさせるが、切り口にしても論じ方のスケールにしても、正直インナーサークルから抜き出ていないという印象をぬぐい去れない。日本の文芸界が私小説の袋小路に入っていったように、この本を読むと、真摯な評論であればあるほどに、ミステリー(いや、そんなカテゴリー自体たいした意味はないが)が妙な閉鎖性へ向かっていやしないだろうかというよけいな心配をしてしまう。山口雅也の『ミステリー倶楽部へ行こう』のような前向きで元気な力を感じることができれば、もっとよかったのにと感じてしまう。ミステリーはエンターテインメントなんだから。

(★★ 2004)



生首に聞いてみろ/法月綸太郎/角川書店

 人体から直接型を取るというインサイドキャスティングの手法で一世を風靡した前衛彫刻家川島伊作が癌で亡くなる。かつては最愛の妻をモデルにした「母子像」という傑作を作り出したが、妻の死後、自身の手法の限界を感じ創作活動を中断していた。しかし、彼は余命を娘・江知加の像の創作に捧げていた。事件は、彼の死後、アトリエに置かれていた江知加像の首が切断されていたことから始まる。切り落とされたのだ。伊作と一時絶縁状態にあった弟敦志と交流のあった法月綸太郎が事件解明に乗り出すが、事件は最悪の方向に転がり出す。

 著者久しぶりの長編本格小説。あちこちに散らばらせた伏線をきちんと回収する手際はさすが。『頼子のために』のような深刻さがないので、過去の事件の奥行きが感じられないあたりにちょっと不満が残る。最後に物語の早い段階で提示されていた川島伊作と弟敦志の確執の謎が明かされるがやや書きすぎではないか。それはみんな分かってんだからと思う。ただ、その言葉が本作のアイディアの種ではないかとも思えるので、だからこそ阿漕にも書いたのかもしれない。とにかく読みやすい好作。

(★★ 2004)



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