〜明るいけど、すこしブルーな日々〜



ホワイトハウスの記憶速読術/齋藤英治/ふたばらいふ新書

 本書はピーター・カンプの『Breakthrough』という本の内容をもとに日本人向けに書き直したものだそうだ。以下に役立ちそうなところをピックアップしておく。
・小手先の技術ではなく、知識の蓄積があるほど、短時間で読めて深い理解と記憶に達する。
・目次によって全体の流れを把握する。
・3段階速読法。第1段階:把握するための流し読み(1冊を10分程度、目次、チャート、図表、キーワード)、第2段階:理解のために、重要と把握した箇所の重点的に読見進め、第3段階:記憶のための熟読。奇跡的にマスターできる速読法はないが、この読み方で能力は確実にのびる。
・速読の障害は、口や心で音を出すこと。
・常に自分の中に5〜10個程度のテーマを持って本を読み、引っかかることがある都度1,200字程度の文書を書いておき、それがたまったところで論文とする。
・パラグラフごとにメインアイディアを抑える。重要でない物を読み捨てる。目標と納期を設定すれば、読書スピードは速くなる。

 本書は、速読術を説く本ではない(1行を一目で視野に入れて、縦書きの本であれば目を水平に動かすことで読み切る方法の紹介などはあるが)。知識がなければ速読はできないという立場なのである。むしろ、効率よく必要な知識を取り込み記憶するための方法について説明がなされていると考えた方がよい。たとえば、紹介されている3段階読書法についても、このコンセプトの中心は、早い段階で本全体を見極めプライオリティ付けをして、マスターすべきことを絞り込むということにある。そのためのちょっとした方法が書かれている。タイトルに惹かれて期待しすぎると、当然のことばかりで失望してしまうが、説明されていることはきわめて真っ当であり、だまされたとは思わない。

(★ 2005/04)




不連続殺人事件/坂口安吾/角川文庫

 終戦後間もない、ある夏、詩人歌川一馬の招待で、山奥の孤立した豪邸に作家、弁護士、詩人、画家、劇作家、女優、医者など、物質的には豊かで教養はあるが、インモラルで退廃的な人々が集結する。ほどなくこの閉鎖空間で次々と殺人事件が発生し、俗物・奇人達が入り乱れる人間関係の中で、名探偵巨勢博士の真相究明へ向けて動き出す。

 高校生の時分に読んだときは、解決のきっかけとなる犯人の不自然な行為について、同調できるという意味で違和感を感じることができた(と錯覚できた)。それは、当時は感情移入してテキストを読んでいたからではないかと思う。大人になり、すれたミステリ読みとなった今は、構造やら叙述やらに気を遣いストレートに読み物として本を読めなくなってしまったのかもしれない。だから、感動は薄く浅く、印象は不鮮明でぼやけたものになってしまうのか。とはいえ、本作は別段感動するために読むような種類のミステリーではないと思うが。

(★★)



ベルリン飛行指令/佐々木譲/新潮文庫

 1940年、ナチスドイツは空軍による英本土爆撃作戦を実施するも、戦闘機の性能差で苦戦を強いられていた。そこで、日本が開発した戦闘機ゼロ戦に着目し、2機の空輸を日本に要請する。軍の中でははみ出し者だが気骨のあるパイロット安藤大尉と乾軍曹が選ばれ、極秘裏にベルリンへ向かう。戦闘することなく、英空軍をかわしつつ、1万数千キロのルートをこえていけるか。

 第2次世界大戦前後の大胆な計画を描いたハードボイルド風冒険小説。ただ、迫力ある戦闘シーンが語られているというよりは、2人のパイロットの物語を楽しむべきもの。時代背景との整合性は難しいとは思うが、その意味では、もう少しキャラクターにひねりがあるほうがドラマをより深いものになったようにも思う。

(★)



新任警部補/佐竹一彦/角川文庫

 地方都市で丹羽静夫と妻の春子が自宅で刃物で切り殺されるという事件が発生した。現場の丹羽家の扉・窓は全て施錠されており、その上周囲に降り積もった雪の上には犯人の足跡は発見されなかった。さらに丹羽家からは家宝である名刀「村正」が消失していた。これまで犯罪捜査の現場に出たことのない捜査一課松本警部補がベテラン巡査部長と組んで、この雪密室事件の捜査に挑む。

 魅力的な謎の設定と、事件捜査デビューという松本警部補を主役にするキャラクターの設定は、それぞれなかなか素敵なアイディアである。ただ、それぞれが100%生かされているかという若干食い足りない感があるといわざるを得ない。小林巡査部長がちょっとステレオタイプなように感じられ、この雪密室も意外といえば意外だが、どうもしっくりこない。やはり、幻想的な謎を取り扱う本格推理とリアリティが追及される警察小説をひとつのものにするのはなかなか難しいことなのだろう。

(★)



ナイフ/重松清/新潮文庫

 いじめとその周囲にいる家族をテーマにした5編の短編集。
 ある日突然クラス中から無視されるいじめにあう中学生の女の子が、こんなことに負けてはいけないと耐える。同じ頃、近所の池にワニが出没するとの噂が広まり、このワニに妙な共感を覚える「ワニとハブとひょうたん池で」
 体が小さいことがコンプレックスだった父親が、同様に小柄な息子のいじめを知って、息子を守るため、家族の幸福を取り戻すために、自分の弱さと戦うナイフをポケットにしのばせる。「ナイフ」
 野球をしていて強い父親に対して、スター選手の名前からつけられた息子のダイスケは弱い少年。父は息子の弱さを受け入れることができず、いじめられている息子を叱咤することしかできない。父と息子の距離感が微妙に変化していくさまをダイスケの幼馴染みが語る「キャッチボール日和」
 ひろしの隣の席に戎(エビス)くんが転校してくるのだが、ちょっとした間違いから、ひろしはエビスくんのいやがらせの対象になってしまう。ひろしには幼い頃から心臓の病で入退院を繰り返す妹がいるが、エビスくんを連れて来る約束をすることになってしまう。この妹のためにひろしはエビスくんのいじめに耐え続ける。「エビスくん」
 今は専業主婦となった元教師の妻が、娘の担任教師のやり方に反発し対立していく。それは妻に仕事を諦めさせざるを得なかった夫婦の問題でもあった「ビタースィート・ホーム」

 本作はいじめをテーマにした物語だからといって決していじめを告発しいじめをなくそうという趣旨の本ではない。このひどい不条理な現実の中で、なぜ子供たちは耐えていこうとするのか、それはあるときは「ゲーム」と割り切り世界からはみ出した存在であるワニへの共感で耐えていこうという努力であったり、あるときは幼い家族への思いやりが根底にあったり。またその只中にいる子供の周囲の親はどのように変わっていくのか、それはあるときは勇敢に立ち上がることであったり、あるときは自分を変えていくことであったり。いずれも達者な描きぶりである。
 読み続けるのが切なくなるような幼い者たちが直面するいじめという現実を透かして、人の強さや家族の思いが描かれていて、小品集であるが、読む価値は高い。

(★★ 2003)




占星術殺人事件/島田荘司/講談社文庫

 画家の石岡和己と占い師の御手洗潔は、昭和11年「梅沢家占星術殺人事件」の解決を依頼される。密室で殺害された画家は6人の処女の身体を再構成して究極の美を持つ「アゾート」を作り出すという恐るべき手記を残していた。ほどなく、6人の娘達は行方不明となり、その後全国各地で遺体が発見され、それらの遺体には欠損があった。人造人間アゾートは本当に作り出されたのか。40年前の事件に名探偵御手洗潔が挑む。

 魅力的な謎と超人的な名探偵の登場で、我が国に再度本格推理小説の時代を呼び戻した名作。トリック自体は推理小説を読み慣れている人には容易に読み解けるものといえるが、なんといってもその取り扱い方がすばらしい。時代の設定の仕方(現代ではDNA鑑定なんてあるのでそもそも無理だが)や占星術の絡め方など1トリックを展開する手法は天下一品。ちなみに私は本作の終わりの方で出てくる京都の喫茶店に行ったことがある(どうでもよいことであるが)。

(★★★ 1996)



斜め屋敷の犯罪/島田荘司/講談社文庫

 宗谷岬のオホーツク海を見下ろす高台に富豪・浜本幸三郎によって建てられた流氷館、通称斜め屋敷に、クリスマスの夜、13人の招待客が集っていた。趣向をこらしたパズルが披露されるパーティーの夜、激しい吹雪の中、密室殺人事件が発生する。警察による捜査が開始されるが、その夜第2の殺人が起こり、捜査は行き詰まってしまう。名探偵・御手洗潔がこの事件の謎の解明に乗り出す。婚約を賭けたパズルやのろわれた人形ゴーレムなど、事件周辺の演出もぬかりなし。

 島田荘司デビュー第2作。パズラーとしては、王道をいく一品である。謎、トリック、舞台、演出、小道具など、必要なピースはすべて取りそろえられている。結末も悪くない。世の評判は十分に高い。だが、島田荘司とその読者たちはここから永遠に傑作『占星術』の呪縛と戦い続ける不幸が始まる。

(★ 1996)



御手洗潔の挨拶/島田荘司/講談社文庫

 名探偵御手洗潔の短編集。オーソドックスな短編推理小説4編を収録する。「失踪する死者」のトリックはこの作家はお気に入りのようで同種の小道具を使ったものを他の作品でも見かけるが、本作が最も良く出来ている。「紫電改研究保存会」は有名トリックをうまく換骨奪胎できているか?

(★)



暗闇坂の人喰いの木/島田荘司/講談社文庫

 横浜にある暗闇坂に、藤並家の脇に樹齢2千年という巨大な楠があった。ここはかつて刑場であったらしく、人が行方不明になったとか、少女の死体が枝に下がっていたとか気味の悪い噂が地元でも絶えないところあった。ある嵐の翌日、藤並家の長男が屋根の上で死体で発見される。個人的に依頼を受けた石岡と探偵御手洗が調査に乗り出す。事件は藤並家の過去に深くつながっており、卓の父ジェームズ・ペインの秘密と巨大な楠の謎の解明が重要になってくる。

 久しぶりの御手洗潔の長編である。本格ムーブメントの扉を開いた島田荘司が、異常者の血や猟奇的な伝奇などの怪奇趣味が横溢する本格推理小説をものした怪作。ただ、論理的な解明という部分がやや弱いのが残念だが、最後まで読者をひっぱっていく著者自身の興奮が伝わってくるよう。

(×)



行きずりの街/志水辰夫/新潮文庫

 塾の講師をしていた私は、行方不明となっている教え子ゆかりを調査するために上京する。彼は、東京の名門校の元教師で、教え子とのスキャンダルで辞めざるを得なかったという過去を持っている。この学校を巡る陰謀にゆかりは巻きこまれたらしい。私は、教職を追われることとなった当時の教え子で元妻とも接触しながら、ゆかりを救い出すべく、学校の不正を暴き出していく。

 弱い自分をもった男がその弱さに直面しながらも問題を解決していくというある意味では非常にロマンティックなストーリーである。スーパーヒーローではない人物を主人公が描かれた場合に、男性作家の描く男と女性作家の描く女はひとつ決定的に違うところがある。後者は自己抑制的自分を律するが、前者は自分の内面に酔ってしまっているところがある点である。これは良い悪いの問題ではないが、気分の違いによって、どちらかが生理的に受けつけられないときもある。

(★)



ハサミ男/殊能将之/講談社ノベルス

 バイトで生計を立てながら、少女ばかりを殺害し喉にハサミを突き立てるという行為を繰り返してきたサイコキラー、通称「ハサミ男」は、強い自殺願望を持ち、様々な手段で自殺を試みては、悉く失敗してきている。このハサミ男が新たなターゲットとしてつけ狙い決定的な時へ向けて準備を進めてきた女子高生が何者かに殺され、その死体を自ら発見することになる。しかも喉にはハサミが突き立てられ、「ハサミ男」の犯行であることが示される。「ハサミ男」は葛藤の中で真相を求め始めるが・・・。

 基本的にこの手の叙述物はあまり好きになれないのだが、本作はかなりできのよい部類に入る叙述物であるといえよう。特に、「ハサミ男」の日常と感情の動きが、狂気に満ちて崩壊に向かっていくさまが自然に語られていく。今日的でありながら、社会性が希薄で、まったく重苦しさがない。こうした作品のあり方が現代の社会性を示しているのかもしれない。

(★★ 2002)



連鎖/真保裕一/講談社文庫

 チェルノブイリ原発事故による放射能汚染食品の輸入事件をスクープした記者の竹脇が、車ごと海に転落した。竹脇の旧友の元食品Gメン羽川は、彼の妻枝里子と関係を持っており、そのことで竹脇夫婦は別居していた。羽川は放射能汚染食品の横流しを調査するうちに、より大きな事件が背後にあることをつきとめ、竹脇の事故は事件の可能性があることに気付く。

 著者真保裕一の渾身のデビュー作である。緻密な調査とスリリングな筋立てが魅力の本作であるが、非常におとなしい物語であるという印象である。これは小役人シリーズとよばれるように設定が地味であるという要素も確かにある程度はあるのであろうが、登場人物達が想定されたことを踏み外さない、あるいはより正確にいえば、踏み外さないだろうなと読者に思わせるような物語り方のためである。そのせいで、結末へ向けての驚きが爆発せず、ちょっと損をしているなと思うのである。

(★ 1995)



取引/真保裕一/講談社文庫

 公正取引委員会審査官の伊田は、特命を受けて、ODAの談合問題に関連して、フィリピンの高架鉄道建設についての岩島建設などの動きを調査することとなる。岩島建設には、伊田の旧友の遠山がおり、彼はフィリピン人妻との間にクリスという子供がいた。ところがここで、遠山の妻が殺され、クリスは誘拐されるという事件が発生する。伊田はこの誘拐事件の解決に巻きこまれて行く。

 いろいろな要素が放り込まれた長編で、ストーリーは大きく破綻することはないが、正直ちょっと読みづらいところがある。それでも上下2巻を読みとおさせるのはやはり著者の熱意であろうか。第1作のおとなしさが消えて、冒険小説としてはこちらの方がよいように思える。

(★)



盗聴/真保裕一/講談社文庫

 短編も悪くない、というか適度に書きこみに抑制が効いていて、こちらの方が好みにあうという人もきっといるであろう。短編だからと言って、手抜きはなく、かなりお買い得感の強い一冊である。

「盗聴」盗聴ハンティングを行っていると、そこに殺人現場からの音声がとびこんでくる。
「再会」睡眠薬を飲み自殺を図った妻の想い出話から、過去の妻に関する疑惑が生まれる。
他3編。オチのついた軽い小品もセンスがよいが、やはり、標題作がいちばんこの作者らしい。

(★)



ホワイトアウト/真保裕一/新潮文庫

 容積六億立方メートル、周囲を二千メートル級の山々に囲まれた、日本最大の貯水量を持つ奥遠和ダム。発電所にいる富樫と吉岡は十一月に雪の山道で遭難しているらしい二人を発見、一人を助けるが、吉岡は事故で亡くなる。吉岡の婚約者平川千晶は、冬の奥遠和に行くこととする。ちょうど同じ時、テロリストグループの「赤い月」はダムへと通ずるトンネルを爆破し、ダムを外界と孤立させ、占拠することに成功する。千晶も他のダム職員と共に囚われの身となった。彼らは職員と下流域住民の命を盾に、現金50億円を要求した。富樫は、親友に対する贖罪から、吹雪のなか、彼女を救うためにテロリストに対する反撃を開始する。

 著者の最大の傑作であることは間違いのないところ。映画はやはり説明不足のところがあって、途中理解に苦しむところや最後のどんでん返しが安っぽい感じであったが、原作はずっとよい出来映えである。主人公のモチベーションがちょっと鼻につくといえばつくのだが、そこはそれ山男なのだからということで納得。緊張感をうまく操られて最後まで読まされるが、著者の力量に脱帽。因みに、私はこれを東南アジアのある国で過ごしていた時に読んだが、その体感温度の差を忘れさせるようなものであった。

(★★ 1998)



奪取/真保裕一/講談社文庫

 手塚道郎は、友人の借金の連帯保証人になっていたため、大金が必要になったが、パソコンで偽札を作り、銀行のATM(現金自動預払機)で真券に変えるという方法をとる。成功はするが、やくざに追われる羽目となった手塚を老いた偽札作り彫りの鉄に助けられる。彼はそこで本格的な偽札作りを決心する。偽札作りと復讐に執念を燃やす男の物語。

 札と印刷に関する描写は本格的であるが、本作はこれまでの著者の諸作品とは違って、大人のファンタジーに仕上がっている。伝説の偽札作りやカリカチュアされたやくざ達といったキャラクター、最後の偽札の受け渡しのスラップスティックなシーン(この手のコンゲームの王道、「スティング」でもおなじみのパターン)など道具立ては万全である。最後の最後はあれでよかったのか、ちょっと意見のわかれるところか。私は余計だったと思うが。爽快な一作。

(★★)




聖徳太子は蘇我入鹿である/関裕二/ワニ文庫

 古代大和朝廷のスーパースターである聖徳太子とその一方の極にいるような専横の限りを尽くしたとされ大化の改新(正確には「乙巳の変」)で暗殺される蘇我入鹿。しかし、実像がまったく確定できない両人物については謎が非常に多く、正史たる『記紀』では意図的に隠蔽がなされていたと見ざるを得ない。ここで歴史の闇に埋もれかけていた蘇我善徳という人物の検証が行われ、またこの事件の背後にあった、九州王朝と出雲王朝の確執が解き明かされていく。二人は本当に同一人物であったのか?

 本書のタイトルはトンデモ本の類に見えるが、その内容は梅原猛氏の『隠された十字架』の系譜に属する史学界の外からの手ごたえのある歴史分析の書である。正史偏重の現在の歴史学会に一石を投じていると思いたいのだが、この時代を完全に説明しきることはなかなか難しい。難しいからこそ、これまでの史学界は説明の根拠を朝廷が編纂した史書に依存してきたわけである。

 それにしても、著者の議論の展開はまことに鮮やかで、質のよい推理小説の結末部を読んでいるようでさえある。それとやはり子供の頃から、古代というのはこういうものだと頭から信じることを強制されてきた歴史教育によって押さえ込まれていた素朴な疑問を思い出させてくれることにもなった。いずれにしても、本書で著者にはまってしまった私は、この後立て続けにほかの著作にも手を出すことになるのであった。

(★★★)



古代史の秘密を握る人たち―封印された「歴史の闇」に迫る/関裕二/PHP文庫

 古代史のバイブルともいうべき『古事記』『日本書紀』はその編纂の意図やたくらみもあり、神話や伝説に託された記述は容易に読み解けるものではないが、これらに新しい意味づけを試み、『記紀』の新しい解釈をもって、蘇我入鹿、聖徳太子、卑弥呼、神功皇后、藤原氏、スサノオなど古代史を彩る人物たち小気味よく見直していく。浦島太郎伝説の読み解きなどを行い、古代史を知らぬ読者も飽きさせることなく、驚異の仮説を展開してみせる。
 私が著者の作品の中で読んだ最初の書。

(★)



卑弥呼はふたりいた/関裕二/ワニ文庫

 邪馬台国とその女王卑弥呼の真実を求めて、『記紀』伝承を探ると、二人の卑弥呼と二つの邪馬台国という全く新しい真相が見えてくる。一人目のヒミコは神宮皇后で、もうひとりの邪馬台国のヒミコは宗像大社に祀られているニギハヤヒの娘出雲の女神カヤナルミであったと結論づけられる。そして最後に蘇我氏の祖とされる武内宿禰による大和王朝誕生の物語へと導いていくのである。

 著者のテーマの一つである出雲王朝による大和王朝の誕生をヒミコを巡る検証から浮き彫りにする本書は、数ある邪馬台国物の中でもおそらく有数の読み応えのある一冊といってよいだろう。特に『記紀』の解釈と縦横無尽に各地の神社の伝承を活用して仮説を固めていく手法は完全に確立しており、凡百の日本史学者を寄せ付けない書となっている。自分の母国のルーツを知りたいとする切望を満たしつつ、なんといってもエンターテインメントとしても良質な本であるといったら著者は怒るだろうか。

(★★★ 2003)



消された王権・物部氏の謎―オニの系譜から解く古代史/関裕二/PHP文庫

 大和朝廷成立以前の大和に君臨していた出雲神二ギハヤヒを祖とする古代最大の豪族・物部氏は、『記紀』の中で「鬼」と称されるが、天皇家とは不思議な関係に満ちている。特に、天皇家の祭祀において、出雲神との関係は特殊なものであり、この鬼と神とのつながりをてがかりとして大和建国の謎を解き明かそうとする。

 千五百年ぶりに物部氏の恨みが晴れていくようである。藤原による大和政権の実質的支配の中で、権力者の常であるが、都合の悪かった歴史の改竄とともにその本当の姿を消し、鬼と化して痕跡をとどめていた物部氏を、史書では消せなかった天皇家との祭祀を通じた関係から検証していく。

(★★)



謎解き古代史 独学のススメ/関裕二/文芸社(2002-06-15出版)

 古代史の独学の面白さとその際の謎解きのポイントをエッセイ風にまとめたもの。著者は、奈良の仏像に魅せられて古代史ファンとなりさらにそれが嵩じてアカデミズムとは距離を置いた在野の研究者となったという。正史研究の人々には見られない斬新な視点を有する著者の原点が、基本的にロマンを追い求める偉大なるアマチュアリズムにあることと、全国の寺社を巡ってはじめて得られるものを大事にしていることにあるのがわかる。著者の考え方を共有しより身近に感じることができる一冊である。

(★ 2004)



大化改新の謎―闇に葬られた衝撃の真相/関裕二/PHP文庫

 日本古代史最大の重要事件と位置づけられる大化改新は、聖徳太子亡き後、専横を極めた蘇我氏による政権を中大兄皇子と中臣鎌足らがクーデターによって奪取した上で遂行された改革事業と信じられている。しかし、史書に基づく考え方では大化の改新にはどうしても説明しきれない点が多数ある。そこで、本書では中大兄皇子と中臣鎌足の実像を明らかにしつつ、大化の改新が反改革であり、滅亡の危機にある百済を巡る方針の違いから蘇我政権を打倒したというものであることを解明していく。

 本書の「はじめに」にあるように明治維新もこの大化の改新も反改革による改革つぶしであったとすると、日本という国の構造上、「改革」の看板の下で、その実体を担う反改革者たちによって、都合のよい矮小な改革がなされてことをすまそうとするDNAがビルトインされているといえるのかもしれない。いつの世にも「改革者」を名乗る者はたくさんいるし、これからもたくさん涌いてくるだろう。だが、そいつはペテン師である。そして、著者は古代史の中から今に生きる知恵を得られると言う。しかし、改革の破綻の歴史は現代においても繰り返されているのである。

(★★ 2003)



藤原氏の正体―名門一族の知られざる闇/関裕二/東京書籍


 大化の改新で突然登場した中臣鎌足を祖とし古代から平安時代に暗躍した藤原氏の謎に挑む。その出自から国を私物化していくプロセスを解明し、祟りにおびえながらも千年続いた藤原官僚支配の謎が究明される。

 これまでのこの人の著作は対象が古代に集中していたものばかり読んだが、今回は平安時代に及ぶもの。センスオブワンダーには欠けるが、聖武天皇のあたりの解釈は秀逸。

(★ 2004)



壬申の乱の謎―古代史最大の争乱の真相/関裕二/PHP文庫

 西暦672年、天智天皇亡き後、大海人皇子と大友皇子による皇位継承権をめぐる対立から古代史最大の争乱・壬申の乱が勃発した。正統天皇の率いる朝廷正規軍が、吉野の地方軍と対し一敗地にまみれたのはなぜか。大海人皇子の正体を解き明かし、この戦乱の背後に潜む出雲勢力を軸とする権力構造を解明しつつ、古代王朝の真実に迫る一冊。

 著者が全国の寺社を巡り、その由来縁起を収集し、そこから得た結論は、日本の古代王朝の成り立ちへの出雲勢力による根深い関与である。連合政権であった大和王朝における出雲勢力と藤原氏との抗争が7世紀の日本の歴史の軸となって動いていたことを、首尾一貫した論理的な分析によって見せてくれる。どんなミステリーも及ばない魅力的な謎を、どんな名探偵よりも痛快に解明してくれる一作である。

 やはり、古代には人をひきつける何かがある。日本の場合には、その人名や地名のギクシャクした響きや、有名人や有名事件がが本当は架空のものであったのではないかというあやふや感などが魅惑的。その中で関裕二はその斬新な切り口や明快さで、普通の読者をエンターテインしてくれる。教科書で習った退屈でつじつまの合わない正史による日本古代史から目覚めさせてくれること請け合いである。

(★★★ 2004)



神武東征の謎―「出雲神話」の裏に隠された真相/関裕二/PHP文庫

 日本神話の白眉である天孫降臨から神武東征の謎に迫る。皇祖神はなぜ南部九州・日向に降臨し、神武天皇は、なぜ日向からヤマトを目指したのか。祟るもの=鬼=神という関係から、神武天皇の正体とその人脈を検証し、ヤマト建国の謎と出雲の国譲りまでの実像が明らかにされる。

(★★ 2004)



継体天皇の謎―古代史最大の秘密を握る大王の正体/関裕二/PHP文庫

 応神天皇五世の孫で越からやってきた古代大王で、これまでは王朝交代があったのではないかと言われている謎の天皇の謎解き。この謎解きは、初代の王たち(神武、応神)が似通っており、これは日本書紀が初代の大王のストーリーを何人かの天皇にばらして語ったものであるというところから説き起こされる。そして応神天皇の母神功皇后は、北部九州を制圧しその後ヤマトに裏切られたトヨであったとし、その後の祟りを鎮めるために彼女の子が九州から迎えられた。それが神武天皇の東征であり、応神天皇の帰還であるとする。このときもう一人のトヨの御子が東国にわたった尾張氏であり、天皇独裁派と合議派との間の抗争時に担ぎ出されたのがトヨのもうひとりの御子の末裔であり、それこそが継体天皇であった。

 著者の得意分野での謎解きは相変わらずで推理小説のような爽快感がある。関史観とでもいうべきものができあがりつつあり、複雑に隠蔽されていた日本古代史が整合的に説明され尽くされようとしている。もちろん、証明されたと言うにはやや弱い部分もあるが、よくぞここまでという気も一方でする。「政争」→「祟り」→「鎮魂」というサイクルが日本の歴史をつくってきたということか。

 しかし、本書はやや文章が雑であったり、構成(説明していく順序)が考え抜かれていない印象を与えたり、既存の著書の引用の仕方が稚拙であったりと本としてのできばえが今ひとつである点は付け加えねばなるまい。

(★ 2004)



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